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第6回年次大会・シンポジウム 発表レジメ1

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◇第6回年次大会・シンポジウム
哲学と芸術
発表レジュメ


西田哲学と建築(論)

香西克彦(財団法人啓明社)

「哲学と芸術」という主題への建築学、建築論からの参与である。
アリストテレスの時代から哲学は建築をその視野に入れ、建築もまたヴィトルーヴィウスの時代から、諸学、特に哲学に通じ、参照することが求められてきた。
哲学と建築の関係を建築の側から明らめることに、そして、参照することに止まらず、哲学(とりわけ西田哲学)へ向けて発言することが、求められた課題であると定めよう。考察は建築論という一学問領野の紹介の中に進められる。
現在建築論の名の下にさまざまな議論がなされてはいるが、本来的に「建築論」と名指されるべきは、建築を「人間の作品」として扱おうとする立場にあり、先験的あるいは固定した観念としての建築ではなく、我々の経験において直観されるような建築そのものの把握を目指すもの。そうした原理的なものの探求こそが、ヴィトルーヴィウスの研究者でもあり、建築論の創始者森田慶一の言う全一的建築論なのである。
ここに言う建築は、Kunstの字義「技」「術」に従う限りで芸術である。そして建築論の核心は、造形行為としての建築術、制作にあることは言うまでもなく、また建築論が論であり得ようとする限り、自らの一つの論としての反省とその自覚が要請されてもいるのである。
技術としての建築と、学としての建築が一なるところが目指される。それは理論と実践の二元の融合を言うのではなく、二元へと分かれる以前であろう。
こうして建築論は、超越的方向(学問)と内在的方向(芸術)との矛盾的自己同一の只中に所在するものとして西田と問題を共有することとなる。周囲には制作と生成、為すと成る、西洋と東洋という問題も見え隠れしてもいるが、西田の実践哲学、芸術論は建築論の導きではあっても、当然ながら建築論からのそれではあり得ず、建築論からの検討の余地が残されてもいよう。建築論における知的反省は建築的制作と表裏するものであり、制作とは精神に矛盾するものを作品として産み出す自己否定的な作用であり、その理論的体系化もまた、事態の只中に居る当事者の知として創造的でなくてはならず、必然的に非体系化をも伴うこととなるという特殊な性格を有するからである。